事件簿
その七

お客と消費者金融、得したのはどちら?

0 Comments
キャッシング裏技虎の巻

本当にあった必殺の増額手法

最近はあまり聞きませんが、かつて、消費者金融業界には、通称「管理増額」と「契約切り替え」と呼ばれる必殺の増額手法がありました。

通常、増額とは、融資目的で行うものですが、この増額に関しては、そうではなく、むしろ「債権管理(債権の正常化)」を目指して行う手法で、その内容は以下の通りです。

●管理増額
たとえば、50万円を貸していているお客がいたとします。
そして、そのお客が、支払い日がまもなく到来するのに、返済するお金がなく、消費者金融業者に相談をした結果、連帯保証人や担保を差し出すことを条件に支払いを1カ月、繰り延べすることで合意ができたとします。

その場合、返済期日が到来する前に、それまでの利息相当分(仮に1万円とします)を含めた、51万円に増額してしまうのです。
(履歴上は、従前の契約分を一旦、完済させて、新たに51万円を融資したということになります。)

そうすることで、そのお客は、その月分の支払いをしなくて、次月に繰り延べすることができるというわけです。

●契約切り替え
上記の例と同様に、たとえば、50万円を貸していているお客がいたとします。
そして、そのお客が、支払い日がまもなく到来するのに、返済するお金がなく、消費者金融業者に相談をした結果、連帯保証人を差し出すことを条件に支払いを1カ月、繰り延べすることで合意ができたとします。

その場合、連帯保証人になってくれる予定の人を連帯保証人ではなく、その人の名前で、新たに51万円を融資して、元々契約をしていたお客の借入れを完済してしまうのです。
(元々の契約者は新たな借入れの連帯保証人にします。)

そうすることで、契約者の名前は変わりますが、元々の契約者は、その月分の支払いをしなくてよくなり、連帯保証人として、次月より返済をしてゆけばよいということが可能になります。

もちろん、こんなことを毎回繰り返していては、消費者金融業者には1円の利息収入も入ってきませんし、お客も、借金が複利計算と同じように、どんどん増えていってしまうので、どちらにとってもメリットがないことになってしまいます。

但し、ここ一番という場面で上手くこの手法を使えば、消費者金融も債権の保全を講じることができますし、お客側も返済を猶予してもらうことができるという、まさに必殺の増額手法なのです。

今回は、この内の、「契約切り替え」にまつわる私の経験談をお話していこうと思います。

問題客のY氏

このサイトでも既に何度か触れていますが、私はかつて、ある消費者金融(街金)で店長をしていた時期があります。
その店には、Y氏という問題客がいました。

Y氏は、当時、四十半ば。仕事は一応、自営、不動産業と聞いてはいましたが、私が赴任したころには営業しているかどうかはよくわからず、何やら副業の怪しげなセールスで糊口をしのいでいるような状態でありました。

このY氏とウチの会社とは、かれこれ10年以上の付き合いがありましたが、かかる不況のあおりを受けて、ここ1年ほどは、まともに入金がなされていませんでした。

督促の電話を入れても、やれ、振り込み先を間違えただの、嫁が振り込んだはずだの、腹が痛いだの、足がつっただのと言い訳のオンパレードで、結局、入金になるのは、3カ月に1回、5千円程度といった状態でした。

Y氏への貸出しは、この時点で確か50万円程度だったと記憶しております。

当時の金利は遅延利息で29.2%。
一度このような状態に陥ったら、復活することはなかなか容易ではありません。
ほとんどの場合、早かれ遅かれ、潰れる運命にあります。

「いまのうちにどうにかして保全をかまさないといけないなあ。」

私は真剣に考えていました。

というのも、Y氏がウチの店にとって問題なのは、何も目先の返済ができていないということだけではないのでした。

実はY氏との10年以上に渡る取引は、相当額の過払い金が発生する可能性があったのです。
そして、その額は、ゆうに100万円を超えているのでした。

当時は、今ほど過払い金返還請求ブームではありませんでしたが、意識の高い弁護士、司法書士の間では、主張されはじめていた時期です。

このままY氏が返済困難を苦にして、弁護士などに債務整理を依頼することにでもなれば、逆にこちらが、100万円を返済することになりかねなかったのです。

「いまのうちに“奥の手”を使うしかないか。」

私はある一計を案じて、Y氏宅に出向きました。

私の奥の手

「やあ、貴方ですか。お金なら今は持ち合わせがないですよ。」

Y氏宅に出向くと、あっさりとY氏は出てきて、やや開き直りぎみに言いました。

「いえ、ここまで溜まってしまったものを、なかなか返済できないのはわかっています。なので、今日は返済立て直しの提案を持ってきました。」

私がY氏に提案したのは、以下のような内容です。

①Y氏の妻に新たに、金利を18.0%に引き下げて50万円を融資する。(Y氏は連帯保証人となる)

②そのお金で、従前のY氏の借入れを完済する。

③翌月より、夫婦で協力して返済を続けてゆく。

こうすることで、Y氏には、実質的に金利が下がったうえで、翌月から仕切り直せるというメリットが生じます。

但し、この提案には、カラクリがあります。
こちらとしても、新たに、「妻」という請求先を増やしたうえ、過払い金返還請求リスクのある債権をとりあえず片付けてしまうことができるというわけです。
(当時は、完済債権まで過払いの掘り起こしはされていなかったのです。)

この提案を聞いたY氏は、「是非ともお願いします。」と、妻に相談することもなく、ほとんど即決してしまいました。

突然の申し出

それから数日後、Y氏は約束通り、妻を連れて店頭までやってきました。
しかし、いよいよ契約書の取り交わしという段になった時、突然、Y氏の妻は次のように切り出しました。

「私の名義にするのであれば、どうぞあと10万円だけ上乗せしてもらえませんでしょうか。」

「お前、何、突然、言い出すんだ。店長さんもびっくりしてるじゃないか。」

「いえ、あれからウチの人とも話し合いましたが、私も協力して、借金を何とかしていこうと思っています。ただ、返済が遅れているのは、ここだけではないので、これまで溜めてしまった、他の支払いを片付けておかないと、結局、支払いに詰まってしまいかねません。来月からは、私もパートを増やしましたから、必ず返済はできます。」

話を切り出すタイミングといい、やけに饒舌なセリフといい、どうやら、事前に夫婦で打ち合わせをしてきたようです。
ただ、一応、Y氏の妻の言うことも、理にかなっています。

「これが私の名義にする条件です。どうぞお願いします。」

「店長さん。妻もこう言っていますから、何とかなりませんでしょうか。」

それは、今さらこの話をご破算にはできないことを見越した、なんとも絶妙なタイミングでの申し出でした。

(この夫婦、なかなかの役者だなあ・・)

私は内心そう思いましたが、結局、申し出通り10万円を上乗せした60万を融資してしまいました。
100万円を超える過払い返還リスクの回避と、妻を巻き込んで50万円の返済の立て直しを図るには、やむを得ない追加金だと判断したのでした。

しかし、それから1カ月の後、驚くべき事態がおきたのでした。

はたしてどちらが得したか?

「畜生、あの夫婦、やりやがった。」

あれから、1カ月の後、一度の返済もないまま、なんと、弁護士から夫婦揃っての破産受任通知が届いたのでした。
Y氏夫婦は、最初からその予定で、受任費用を賄うための10万円を持っていったのです。

この場合、せめて余分に借りていった10万円だけでも返却を求めたいところですが、弁護士にわざわざ、過払いがあることを教えるようなものなので、それもできないのです。

「Yの野郎、行き掛けの駄賃で10万円持っていきやがった・・。」

私は、Y夫婦に、完全に一杯食わされたのでした。

「しかし、ちょっと待てよ。」

もし、あの夫婦が、自己破産ではなく、債務整理で受任されていたら、こちらは、過払い金返還請求をされて、50万円の貸付けがなくなり、さらに100万円の返金を要求されるわけなので、最悪マイナスは150万円になったはずです。

それが、60万円のマイナスで済んだということは、一応は、こちらとしても成功だったということかもしれないのです。

「いやいや、やっぱり、こんな考え方はおかしいわ。」

このように、「過払い金返還請求」を意識しだしてからは、金融業者として、何が正解で、何が失敗だったのか、わからなくなってしまったものでした。

否、正直言えば、今、振り返ってみても、何が正解だったのか、果たして、Y氏夫婦は得したのか損したのかも、いまだにサッパリわからないままなのであります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です