事件簿
その八

従業員たちの犯罪ファイル

0 Comments

いま明かされる従業員たちの事件簿

裏技を駆使してお金を騙し取ろうとするのは、なにもお客側だけではありません。
中には、カードローン会社の従業員として悪事を働く輩もいるのです。

実際、長年、消費者金融業界にいると、業界ならではの、「金が絡んだ不正行為」を見聞きすることがあります。

しかし、その大部分は内々で処理されてしまい、事件として公にはなっていないのです。

ここでは、私が消費者金融業界で見聞きしてきた、「もみ消されてしまった不正行為」の全容を暴露していきます。

尚、団体や個人が特定されないように、多少、脚色は加えさせて頂きましたが、ここに書いたことの90パーセントは実話なのであります。

意図的に貸し倒れを作る

消費者金融の店舗で一番、不正をやりやすいのは誰だかわかるでしょうか。
入社したばかりの新人や、社歴の浅い従業員でしょうか。

いえいえ、実は、一番、不正を起こしやすいのは、その店で一番権限を持っている「店長」といった立場の人です。
このような立場の方は、社歴も長く、会社の内部体制にも精通しているので、どうすれば不正がバレにくいのかも、よく知っているものです。

例えば、店長とお客が組めば次のようなことも可能です。

①あらかじめ共謀している客に申込みをさせる。(その際、勤務先などの情報は全くのでたらめを申告させる。)

②店長は無条件でその者に可決の決裁を出し、融資を行う。

③融資した金は、客と店長とで折半する。(もちろん会社には返済はしない。)

④その後は、連絡が全くとれず、勤務先も不明な客として、貸し倒れ処理をする。

なんとも単純な手口ですが、消費者金融は、毎年、何件も貸し倒れ処理を行っているので、紛れてしまえば、ほとんどバレることはありません。

また、発展バージョンとして、支店の従業員数名がグルになって、組織的に、貸し倒れを作り、横領を行うという方法もあります。

支店の従業員数名に多少の分け前を渡して、
「バレたらお前も共謀者として挙げられてヤバいことになる。だから絶対に言うなよ!」
と釘をさしておけば、一致団結して隠蔽を図るようになるものです。

本来、金融業界では、このようなことを防止するために、定期的に人員を入れ替えるとか、人事異動の話はギリギリまで本人には伝えないなどの対応をしているものです。

しかし、そのような意識が低く、人員に乏しい中小企業では、なかなかそれが徹底できていない会社がほとんどです。

また、一定の利益を出している店長であれば、多少、怪しい動向があっても、やり過ぎない限りは不問に付すという、清濁併せ吞むような経営者もいます。

結果、このような古典的手口が、今日でも有効だったりするのです。

まあ、このような不正は、多くの場合、その店長が異動になった場合や、退職した後に、バレてしまうものです。
(やり過ぎていた場合、本当に刑事告発されることもあります。)

善良な皆さんはくれぐれも、このようなことに手を貸さないようにしてください。

紹介屋の誘惑

①それは突然の電話から

これは、私がある消費者金融で支店長をしていたときの話です。
それは、ちょうど改正貸金業法が完全施行される直前のことでした。

「店長、凸凹金融の金田さんという方から電話が入っています。店長に会いたいと言っていますが。」

「凸凹金融?なんだそれは。」

そんな会社は聞いたことがなかったので、私は電話に出た部下に、一旦、折り返しにするよう伝えました。

調べてみると、凸凹金融とは、ウチの会社と同じ都道府県に貸金業登録のある会社で、日本貸金業協会にも加盟している、正規の登録業者でした。

なんだろうと思い、電話をしてみると、先方は、
「法改正を間近に控えて、同業者として、是非いろいろと意見交換ができないでしょうか。」
と言ってきます。

当時は、私がいた会社も、法改正後にどのような営業体制をとってゆくべきか、明確な指針はありませんでした。
そのような中、同業他社の意見を聞くのも参考になるかもしれないと思い、私は意見交換を快諾しました。

先方が、面会の場所として指定してきたのは、どちらかの事務所ではなく、何故か、近くの喫茶店でした。

「そのほうが、ゆっくり話ができると思いまして。」

「わかりました。そこで結構です。」

私は、可愛がっていた部下のKを連れて、指定された店に出向きました。

②悪魔の誘惑

店につくと、既に金田氏は待っていました。
おそらく年齢は30代半ばあたりでしょうか。
やや派手な恰好で、いかにも、「街金」といった感じの風体の男でした。

挨拶をすませて、一通り雑談を終えると、金田氏はおもむろにこう切り出したのでした。

「消費者金融も大変な時代になってきましたね。ところで、お二人は、副業に興味はないですか。」

「はあ?」

金田氏の話は次のような内容でした。

「いえね。私どもが懇意にしている弁護士事務所があるんですが、そこにお客を紹介すると謝礼がもらえるんです。申込みがあったお客を店頭によんで、債務整理を勧めて、その気になったら事務所に一緒に連れていくだけです。毎月50万円くらいにはなりますよ。

「過払いは儲かりますが、弁護士や司法書士も広告宣伝が大変らしいですね。こっちは断るお客を回してあげるだけなので、結構楽な小遣い稼ぎになりますよ。他の会社でも、やっている人は多いですよ。」

どうやら我々に声をかけてきたのは、これが目的だったようです。

(て、店長、どうします。・・・)
Kの心の声が聞こえてきます。

噂には聞いていましたが、どうやら「紹介屋」というのは、このような勧誘を受けた、消費者金融の従業員が不正行為を行っているのも多いようです。

「そうですか。また検討しておきます。では。」

そう言って、私は話を打ち切って、席を立ちました。

「業界も厳しくなってきますし、なかなか給料も上がらなくなるんじゃないですか。上手いことやって儲けないと馬鹿らしいですよ。もし、その気になったらまた連絡ください。」

店をでた後、Kは私にこう言いました。

「あのヤロー、ふざけた奴でしたね。でも、オレは50万円って言われた時、正直グラっときてしまいましたが、顔色変えずにビシッと断るなんて、店長は流石ですね。」

「なに言ってやがんだ、当たり前だろバーカ。」

こんな話をしながら、私は、金田氏の名刺を大事にポケットにしまい込んだのでありました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です