事件簿
その六

逮捕者の借金を回収せよ!

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逮捕者チェックからはじまる街金の朝

地方の街金の朝は、新聞の地域面のチェックからはじまります。
これは地域で起きた窃盗事件などの逮捕者に自社のお客の名前が掲載されていないかをチェックするためであります。

はっきり言って、この業界では、お客が逮捕されることは、別に珍しいことではありません。さすがに「殺し」まではなかなか見られませんが、「詐欺」、「窃盗」などの「ケチな犯罪」で逮捕者がでることは実際、よくあります。
逮捕前の調査の段階で、警察から、「捜査関係事項照会書」が届くことも日常のことです。

窃盗なんかで逮捕される奴は、どうせ借金の支払いもろくにしていない長期延滞者に違いないと思われている方も多いのですが、実は、逮捕された人たちは、これまで借金の返済は遅れずにしていた人がほとんどなのです。
お金がなくて盗みをするくらいなら、借金なんて払わないのが普通だと思いますが、驚くことに彼らは、窃盗してまで借金を返済しているということなのです。

これは冷静になって考えれば、全くもって割にあうことではありません。
借金は、たとえ、踏み倒しても単なる民事上の「契約不履行」であって、犯罪ではありません。しかし、窃盗となると、れっきとした犯罪であり、実刑となることも珍しくないからであります。

念のために言っておきますが、彼らは、反社会的勢力でもなんでもなく、ごく普通の(堅気の)人たちです。
取り立てをする側の消費者金融も、「泥棒してでも返せ!」なんてやったら、例え、ひと昔前であっても、さすがに一発退場なので、そこまですることはありませんでした。

そんな普通の人たちが、追い込まれると、おかしな思考になってしまうのか、もともと倫理観がずれているのか、定かではありませんが、ともかく一定数はこういう人たちもいるものだということです。

さて、今回のお話も、私が店長をしていた街金のお客が逮捕されたとこからはじまります。

ヤバイ、実刑が出るぞ!

「あっ、店長、ウチの客のアライヒロフミ(仮名)が、逮捕されたみたいですよ!」
新聞を読んでいた部下のKが、突如、騒ぎながら寄ってきました。
「アライヒロフミ?ウチにそんな客いたか?」
「いますよ、います。覚えてないですか?店長も話したことはあったと思いますよ。」

このKという男、おっちょこちょいでミスも多いのですが、なんとも愛嬌のあるヤツで、当時私が最も可愛がっていた部下であります。
普段はズボラなくせに、この手の記事を見つけてくるのは得意なようで、毎朝新聞の地域面を隅から隅まで読んで、このような事件を目ざとく探してきます。
これは、客の名前も頭に入っていなければ、なかなか探せないので、思ったよりも大変な作業なのです。
恥ずかしながら私なんかは、赴任してから1年以上経つのに、1度も探し出せたことはありません。

「なんかこいつ、1人で車に乗っている女性を狙って、金を奪っていたらしいですよ。強盗に強姦未遂・・。こりゃマジでクズ野郎ですね。間違いなく実刑っすね。」
Kは、自社の客の「とくだね」を発見したうれしさからか、ニヤニヤしながら話してきます。
「バカヤロー!こいつが実刑になったら、貸した金はどうすんだ!」

キーマンはやはり「親」

お客が実刑までくらった場合、本人から貸した金を回収するのは、ほぼ不可能です。
まさか刑務所まで取り立てに行くことはできませんし、本人はいつ出所してくるのかもわかりません。
また、服役中に時効が到来してしまう可能性もあります。
そのため、このような場合は、身内をあたってみるのがセオリーです。
身内と言っても、正直、あてになるのは「親」しかありません。
実刑が出た場合、配偶者は離婚の可能性が高く、兄弟は関わりたがらないケースがほとんどです。
しかし、親子の縁はなかなか切っても切れないものだからです。

幸い、アライは独身で両親と実家に住んでいました。
私はKを引き連れて、アライ宅に出向くことにしました。

「お前、こういう時の親の心情はどうだと思う。」
「う~ん。まあ、息子がしでかしたことだから、なんともいたたまれない気持ちでしょうかね。」
「そうだな。事件が新聞にまで載ったんだ。こんな田舎町では当然、親戚一同から総スカンだよなあ。あの一家は今まさに四面楚歌の状態ってことだ。その心の隙間を上手くつついて話をすれば、突破口を見つけ出せるかもしれん。」

「あと、親にも二種類のタイプがいる。①世間体を気にせず、なりふり構わず徹底的に子供をかばおうとするタイプと、②「私はいい子になるように育てていたのに・・」などと、自分も被害者ぶって、どこかで子供を切り捨ててしまうタイプと・・・。
アライの親は果たしてどっちのタイプだろうな。
②タイプだったら回収は絶望的だけど、①タイプなら、可能性はあるぞ。俺のペラ回しをよ~く聞いておけよ。」
「わかりました。」
こんな話をしているうちに我々はアライ宅につきました。

実録、代払い要請のペラ回し(口説き文句)!

アライ宅につくと、アライの母親が対応してくれました。
「この度は、息子さんの件でお母さんも大変でしたね。今回はきっと、なにかの誤解があったのだと思います。これからの調査で誤解が解けて、早く出てこられるといいですね。」
世間から四面楚歌状態の母親にとってこれは嬉しい言葉のはずです。

「ありがとうございます。私ども夫婦も息子を信じております。」
「そうですね。大体、息子さんみたいな優しい人が、あんなことするはずがないんだ。そのことは私どもも、よ~く、わかっています。
しかし、息子さんが出てきたときに、返済が滞ったままだと、これから社会復帰するのに、凄く大きな足かせになってしまいます。そういう事態だけは何としても避けなければいけません。
なんとかその間だけでも、お支払いのご協力いただくことは難しいでしょうか。」
「はい。ただ私ども夫婦も裕福ではありませんので、出来る範囲でしか協力できませんが・・。」
「もちろん返済は毎月出来る範囲で結構です。ただ、お母さんにお支払いを強要したと誤解を受けるようなことは会社のルール上、私もできません。
なので一応、息子さんの連帯保証人になっていただくということでお願いしたのですが、よろしいでしょうか。私どもも息子さんの復帰を全力でサポートしますので、一緒に頑張っていきましょう。」

ざっと、こんなやり取りを10分程度した後、我々は、母親を追認で連帯保証人とすることに成功しました。

「店長、流石っすね~。あのペラ回しは天下一品だ!オレにはとても真似できないや。」
Kは相変わらず無邪気に私のことを褒めてくれます。
「なに言ってやがんだ、バーカ。」

しかし、強盗までやって金を返してきたアライと、被害者まででてるのに犯罪者の息子を無条件で信じてかばう母親と、その老親から金を回収しようとする我々と、一体どれが、本当のクズ野郎なんだろうか・・・
アライ宅からの帰りの道すがら、ふとこんなことを思ったものでした。

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