事件簿
その参

「借金回収の鬼」の私が回収を諦めた客

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サラ金の街

思い出したくもない思い出話

長いこと回収業務をやっておりますと、全く常識が通用せず、とてもじゃありませんが手に負えない客にあたることがあります。
百人に一人、いや、千人に一人という確率ではありますが、何と言うか、心臓に毛が生えているというか、面の皮が鋼鉄で出来ているというか、とにかく図太い奴らであります。

自分で言うのもなんですが、当時の私は若気の至りもあり回収業務に関しては、かなり「イケイケ」の部類だったと自負しております。しかし、こんな奴らにあたったら回収は諦める他ありません。

今回はそんな思い出したくもない思い出話をしてみたいと思います。

借りにきたのはなんとあの女優!?

これは私がとある街金融業者で店長をしていたときの話です。

ある時、店頭に30代前半の女性客がやってきました。
面談したところ、夫の給料を銀行からおろしてきた帰りにカバンを落としてしまい、このままでは家に帰れない。必ずお返しするので何とかお願いしますと涙ながらに語るのでした。

その女性客の風体は、気弱で誠実そうだがやや影がある薄幸の美女、てっとり早く言えば「木村タエ」といったところです。
頬に目立つホクロがあるところなど雰囲気は「木村タエ」そのものと言えるほど似ていました。

彼女の旦那の勤務先は中小企業の工場でしたが、長年の勤務実績があるようです。私は月1万円以下の分割であれば返済は充分可能と判断しその場で20万円を融資しました。

「本当にありがとうございます。御恩は一生忘れません。」
と、タエは何度も頭を下げて帰っていきました。

もちろん私はこの女性の色香に惑わされて融資をしたわけではありませんが、やや鼻の下が伸びていたことはコッソリ告白しておきます。

しかしいざ返済となったとき、あの気弱なタエが豹変したのです。

大胆不敵な嘘

数カ月後、なにやら回収担当がごちゃごちゃと騒いでいるのが漏れ聞こえてきました。聞けば、あのタエが返済をほったらかしで行方不明になってしまったとの事でした。携帯に電話をすれば、身内の女性が出るが、どうにも腑に落ちないとの事でした。

もとはといえば私が融資した客なので、私が直接電話してみることにしました。

電話をかけるとすぐにつながり、明らかにタエと思われる声の女性が電話に出ます。しかしその女性曰く、
「私はタエの姉ですが、タエはしばらく家には帰ってきていません。」
とあくまで本人ではないと言い張り、一向に話が進みません。

やむなく、タエの自宅を訪問すると、出てきた女性は、間違いなくあのタエです。頬のホクロの位置も同じなので間違いありません。

しかし女性は同じく本人の姉だと名乗り、
「タエは、ここ数ヶ月ほど帰ってこず行方不明です。」
と、融資をした私を目の前にして平気で言ってのけたのです。

なんという大胆不敵な嘘、なんという面の皮の厚さ、ここまでされたとあっては、本来、締め上げてやりたいころですが、そこは街金融とはいえお上から許可を得て営業している正規登録業者の悲しいところ、こみ上げる怒りをグッとこらえて尋ねました。

私:「なんでお姉さんがここにいるのですか。」
タエ:「タエが行方不明になったから、タエの夫に子供の世話を頼まれました。」

私:「さっき家の中から、お子さんがあなたのことをお母さんと呼んでいたのが聞こえましたが。」
タエ:「タエが行方不明になってから本当の母親のように思うように言っているから。」

など、どこまでもふてぶてしい応対をしてきます。

これでは埒が明かないから法的手続きをしてやると内容証明を送り付けても、「ご家族からここには居住していないので受け取り拒否された」と郵便局からつっかえされる始末です。配達証明を受け取り拒否される以上、訴訟に踏み切ることも出来ません。

タエがやっていることは、単に姉になりすますという単純かつ安易な手口ですが、こんな子供だましのような手口でも徹底してやられると、正直、貸金業者としては手の打ちようがありません。
行儀のよい正規登録会社であれば尚更です。

また回収客は他にも多数いるわけで、こちらもいつまでもこの客だけに時間を割くことも出来ません。
かくして我々はタエからの回収は諦めざるを得ないということになりました。

まさかの邂逅

私がタエと再会したのは、それから数年後の某有名飲食チェーンの店内でした。

「あら、店長さんお久しぶりですね。」

と彼女は少しも悪びれずに私に話しかけてきたのです。
久しぶりに会ったタエは憂いのある雰囲気はそのままですが、すっかり品のよいマダムといった装いでした。

当時の私は、勤めていた貸金業者もやめ、その後の仕事もなかなか続かず、すっかりしょげ返っていた時期でしたから、今さら彼女に文句をつける気力はありませんでした。

聞けば、当時の夫とは別れ、その後、ひょんなことで、この某有名飲食チェーンのオーナーとめでたく再婚したとの事でした。

そしてタエは、
「そうそう、あなたには大変お世話になったからコッソリ教えてあげましょう。」
と声をひそめて耳うちしてきたのです。
「絶対に損しない投資の話があるのですが一度セミナーにいらっしゃいませんか。」

その時私はとてもじゃないけど彼女にはかなわないことを悟りました。
さてその後私がセミナーに行ったのかは、またいずれかの機会にお話したいと思います。

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